談合の強制

 国や公共機関が民間に発注する大型土木、建設工事に加え、地方自治体の多岐に渡る委託業務の殆どが競争入札によって民間企業に委ねられている。
 しかし、競争とは名ばかりで、談合によって落札業者の多くが決定しているのが実情である。
 ここに記すのは、新規に入札事業に参入しようとしたある業者が、既得権を主張する企業とそれを後押しする地元選出の代議士らによる「談合の強制」を受けた実例である。

□平成13年3月某日
 某党大物国会議員W(67)が、自身がよく知る企業が党内身内代議士の地盤で既存利権(入札事業)に食い込もうとしているとの情報を得、秘書Kに撤退を促すよう要請する。
 命を受けた秘書Kが、新参として落札しようとしているN興業のH社長に対し計3回の電話を入れる。

□1回目の電話  (入札日3日前頃)

秘書K 「うちの親父が党本部で大恥をかいてきた。君の会社(N興業)が○○県で一番大きな病院を取ろうとしているらしいが…?それもうちの事務所や俺の名前を使って」
H社長 「指名には入ったがKさんや事務所の名前は一切使ってません」
秘書K 「だいたい君の会社とうちの事務所は絶縁状まで交わして縁を切っている筈だ。絶縁状を交わす為にWが君から借りていた千数百万の金も俺が無理して作って返済したのにふざけるな。君が俺の名前を使っていないと言っても現実に出てるじゃないか。君が狙う仕事の件名やその内容も知らないのに、今日始めて親父から聞いたんだぞ」
H社長 「本当にKさんの名前など出していません」
秘書K 「ともかく何でもいいからその仕事から手を引け。競合する相手はT代議士(37)の父親が社長をしている会社らしいが、話し合いに応じて仕事を降りろ。俺はお宅の会社の陰部もよく知っているんだ。公表すればどうなるか解かっている筈だ。俺を本気で怒らせるなよ」
H社長 「解かりました、話し合いには応じます。KさんやW先生の顔に泥を塗るつもりはありませんから。ただ先方の会社に若干の条件を出させてください。うちも経費を掛けて指名に入れてもらった訳ですから」
秘書K 「条件とはどんな条件だ」
H社長 「若干の経費と一部下請けをさせて欲しいのですが」
秘書K 「俺は何も知らないから何とも言えない。とりあえず先方とよく話し合いをしてくれ。くれぐれもお宅で落札するような事のないようにしろ。Wには俺から今の話をしておく」
 
□2回目の電話(N興業落札後直ぐ)
秘書K 「お宅の会社が落札したそうじゃないか、それもかなりのダンピングまでして…一体どうなっているんだ。俺の言う事を聞けなかったという事なのか」
H社長 「そうじゃありません。先方に条件を出したら本社と相談して回答をするという事になっていたのですが、入札当日の電話で、時間がなくて本社との調整が着かなかったから『今回はお互いに独自札で行きましょう』と連絡があったので、うちなりの札をいれさせて頂いたら結果落札になったんです」
秘書K 「解かった。俺は事情を知らないので親父に確認をしてみる。もし俺のほうでお宅に今回の仕事を辞退しろといったら辞退するのか」
H社長 「Kさんが辞退しろというのであれば辞退します」
秘書K 「折り返し電話を入れる。俺の電話を待っていてくれ」
 
□3回目の電話(2回目と同じ日)
秘書K 「Wに連絡をとったらT代議士の方からW先生には迷惑を掛けるわけにはいかないので、自分達の方で処理をするからといった話があったそうだ。だからうちの事務所はもう関係ないから、君は俺の言う事を聞いて仕事を辞退する必要は無くなった。自分のところで仕事をしたらいい」
H社長 「ありがとうございました」
 
 どいつも こいつも

――以上が、N興業社長の話に基づく国会議員秘書との電話でのやり取りだ。
 この秘書の業者に対する態度は一貫して高圧的であり、有無を言わせずに従わせようとする様子が見て取れる。しかも、事実確認のため当紙が取材を要求したのだが一切応じず、逃げ回る始末である。

 最初の取材要請から3週間も過ぎた頃の今月5日、漸く秘書Kを捕まえ確認すると、H社長には電話を入れて何回か話をした事は認めた。
 内容に付いてはよく覚えていない、と惚けながらも「信義違反になるような事はしないほうがいい、W先生もH社長の事を心配しているし、ここは穏便に先方の会社と話し合って解決した方がいい」と話した記憶があるとした。
 更に「自分は本当にN興業がどの様な経緯でその仕事を受注したのか解からなかったし、関係もしていなかった。自分のところのW先生がT代議士から頼まれてそれを自分に話をしてきたという事なので、H社長に話をしただけであり、詳しい話の中身については全く知らない」と答えた。
 さて、この一件はどの様に解釈すればいいのか。

 本来なら政治的要素が絡むべきでない指名競争入札なのだが、大きな利権が絡む場合、当然のように政治家が介入してくる。
 今回の一件は、○○県に絶大な勢力を持つ某党(O党首)の秘蔵っ子=T代議士の関連会社が、長年に亘って談合をすることで県発注の公共事業を牛耳って来た、という事実が前提にある。
 その大切な“米びつ”に手を突っ込んできた会社が偶然にもW先生が面倒を見ていた会社だった。そこでこの件をうまく取りまとめ新たな利権を得ようと、W先生は考えたのかも知れない。
 一方のT代議士はそれを阻止しようと『先輩議員であるW先生に迷惑を掛けられない』と尤もらしく丁寧に断って、一件から手を引いてもらったのか。
 そんな両者の思惑が微妙に絡み合う中を、業者を恫喝しながら飛び回った秘書も、挙句の果てに当紙に追い回された。
 そして、何処の誰が出てきてもいいから、仕事と金になればいいとするN興業社長。結局、どいつもこいつも利権に群がる醜い悪党だったのね…。
 次回はその混迷振りを報告します。勿論実名でネ。

 
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