帳尻合わない1億2,000万円

三田明の「おまかれあれ〜」を信じた関矢が悪かった?
―「被告人を懲役六年に処する」―
 今年7月18日、新潟地裁長岡支部に於いて1人の男に判決が言い渡された。
 男の名は関矢淳。事件当時、新潟産業大学(以下、新産大)事務局会計課係長を務めていた男である。関矢は、平成9年4月から同14年3月までの間、計121回に亘り新産大の資金を横領し、商品先物取引に投資していた。横領した金額は、総額約11億4,277万円にも昇るという。

 実はこの事件の陰に、刑事裁判でも明らかに出来なかった『疑惑』が潜んでいるというのだ。判決要旨等の裁判書類に当たりつつ事件の裏側に迫ってみよう。

 関矢は、横領した新産大資金から約437万円を自家用車購入に充てている。従って横領金の総額からそれを差し引いた額=約11億3,840万円が先物取引3社を通じて投資した金員の総額ということになる。

 その3社とは、サンワード貿易(株)(札幌市中央区大通西8-2-6・古谷敏明社長)、(株)小林洋行(中央区日本橋蛎殻町1-15-5・細金鉚生会長)、ベストコモディティ(株)(=現・萬成トレーディング(株)=中央区新川1-24-8・谷川榮社長)だ。

 裁判書類によると、関矢が先物取引3社に注ぎ込んだ額、3社から返還された額、そこから逆算した損金額の内訳は次の通りだ。

 サンワード貿易(株)=9,030万円投資して1,836万円返還、7,194万円の損、(株)小林洋行=6億6,112万円投資して4億838万円返還、2億5,274万円の損、ベストコモディティ(株)=3億8,698万円投資して1億6,000万円返還、2億2,698万円の損、となる。以上の数字から、新産大の蒙った実損害額5億5,603万円ということになる。

 ところが、本紙が入手した情報によると、新産大が文部科学省に申告した実損害額は、約6億8,000万円。裁判で明らかになった実損害額よりも、約1億2,397万円も多いことになる。
 まさか、新産大が文部科学省に対して、実損害額を1億2,000万円以上も過大申告したとは考えられない。ならば、1億2,000万円は、一体どこへ消えたのか…。

 
 萬成の対応に数々の矛盾点
ベストコモディティ(株)(現・萬成トレーディング(株)・東京都中央区)

 ところで、裁判を傍聴した本紙取材班によると「サンワード貿易(株)との取引で生じた損金は幾らですか」との弁護側の尋問に対し、関矢は「約1億円です」と答え、「その1億円に(株)小林洋行との取引による損金も加えると?」との問いには「約4億円です」と答えたという。

 この関矢の証言内容を基に逆算すると、ベストコモディティ(株)との取引による損金は1億5,166万円となる。これは、前述した裁判書類の数字より7,532万円少ない損金額だ。一体どっちが本当なのか。

 本紙は、ベストコモディティ(株)(現・萬成トレーディング(株))、その親会社である入や萬成証券(株)(中央区新川1-21-2・西村今朝男会長)(以下「萬成二社」と呼ぶ)に対して取材を行なった。

 ところがこの萬成二社によると、関矢との取引での損金は約2億5,000万円だというのだ。これだと、裁判書類の数字よりも2,302万円多く、更に関矢の証言から逆算した数字より9,834万円も多い損害金ということになる。

 確かにこの刑事裁判は、主客で言うならば、関矢が新産大の資金を横領したことが“主体”なのであって「どこの先物取引会社に幾ら注ぎ込んで幾ら損した」という内訳は“客体”であろう。しかし、その内訳の数字が狂った結果、先物取引(3社)で生じた損金の総額が1億円多かったとしたら、横領金の総額も同じように1億円多かった、ということになる(或いは先物取引3社が『返還した』と言っている金額が嘘だったという可能性もある)。

 但し、関矢が法廷で偽証した可能性もゼロではないが、容疑を大筋で認めている被告が、これ以上嘘をついて何の得があるだろう?

 また、サンワード貿易(株)で生じた損金と、それに(株)小林洋行で生じた損金を足した金額を質問しておきながら、ベストコモディティ(株)で生じた損金額を敢えて質問しないという弁護側の尋問方法も、不可解といえば不可解だ。時間にして数十秒に満たない質問を敢えて省く必要性がどこにあったのか。

 法廷の場で関矢が証言した『サンワード貿易(株)と(株)小林洋行で生じた損金合計=4億円』が正しい数字であったと仮定すると、実はその次に敢えて質問しなかったベストコモディティ(株)で生じた損金は、萬成二社が本紙に回答した金額と同額の2億5,000万円だったのではないか。

 つまり先物取引3社で実際に生じた損金の合計は、裁判書類よりも9,834万円多い約6億5,000万円で、これに自家用車購入代金の437万円を足した6億5,437万円が本当の損害額だったのではなかろうか。もしそうだとすると、新産大が申告した6億8,000万円という実損害額に極めて近づくのだが…。

 関矢の証言が嘘なのか、萬成二社の証言する損金額(返還額)が嘘なのか、新産大の申告した実損害額が1億2,000万円以上も多過ぎるのか、検察側が起訴した横領金額が1億円以上足りないのか、真実は闇の中だ。但し、萬成二社の対応に不可思議な点が多いことも無視出来ない。

 例えば、本紙取材班に差し出した関矢の金銭の出入りを示す書類を「農林水産省、経済産業省、日本商品先物取引協会に提出した」と証言していたが、確認を取ったところ三者とも「そんなものは受け取っていないし、そもそも提出をお願いする筈も無い」と答えている。また三者ともが、この書類の後半部分=平成14年3月以降5ヶ月間の数字を「極めて不自然で、デタラメっぽい感じがする」とコメントしているのだ。

 また、取引を行なった3社の中で最後に取引に携わったのも、やはりベストコモディティ(株)だった。
 帳尻の合わない1億数千万円の新産大資金の中には、我々国民の税金が含まれている。
(つづく)

 
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